この記事の結論
- 家の中でつまずく場所は、だいたい決まっています。玄関の上がり框、階段、廊下の敷居、浴室、そして夜中にトイレへ行く道。この5つを先に見てください。
- 全部いっぺんにやる必要はありません。手すり1本なら1万円〜5万円程度です。いちばん「ひやっとする場所」から1か所ずつで十分です。
- 介護保険の住宅改修費は上限20万円(自己負担1〜3割)。着工前の申請が必須で、工事をしてからでは出ません。ここを知らずに先に工事をしてしまう方が本当に多いです。
- 認定を受けていなくても工事はできます。むしろご自分の足で歩けるうちのほうが、手すりの高さをご本人に合わせて決められます。
- 屋外も忘れないでください。濡れた玄関アプローチのタイルは、家の中のどこよりも滑ります。
「最近、階段を上がるときに手をついてしまう」「浴槽をまたぐとき、一瞬ひやっとした」。工事のご相談に伺ったお宅で、屋根や外壁の話が終わったあとに、こういうお話をぽつりといただくことがよくあります。
まだ杖もいらない、買い物にも自分で行ける。けれど、以前はなんとも思わなかった段差が気になり始めた——この時期にやっておく手直しが、いちばん安く、いちばんよく効きます。この記事では、家のどこが危ないのか、どんな工事にいくらかかるのか、介護保険をどう使うのかを、実際に工事をしている立場から順に書いていきます。
目次
つまずく場所は、だいたい決まっています
私たちは工事の下見で、たくさんのお宅の中を歩かせていただきます。間取りはどれも違うのですが、「ここは危ないな」と思う場所は、驚くほど同じです。
- 玄関の上がり框(あがりかまち) — 一段が20cm前後あります。しかも靴を脱ぎ履きするので、片足立ちになります
- 階段 — 上るときより下りるときが危険です。足元が見えにくく、体が前へ倒れます
- 廊下と部屋のあいだの敷居 — わずか2〜3cmです。低いからこそ、足が上がりきらずに引っかかります
- 浴室 — 濡れている、裸である、浴槽をまたぐ、という三つが重なる唯一の場所です
- 夜中に寝室からトイレへ行く道 — 暗い・寝起きでふらつく・急いでいる。条件が最悪にそろいます
消費者庁も、高齢者の事故は住宅内で多く起きていると繰り返し注意喚起しています。屋外より家の中のほうが危ない、というのは実感としても正しいです。家の中は「安全な場所」だと思っているので、身構えていないからです。
もうひとつ知っておいていただきたいのが、転倒のあとに起きることです。骨折して数週間動かないでいると、足の筋肉はあっという間に落ちます。転倒そのものより、そのあと歩けなくなることのほうが怖い——これは介護の現場の方が口をそろえて言われることです。
認定を待たず、動けるうちに付けたほうがいい理由
「まだそんな歳やない」「介護保険の認定も受けてへんし」とおっしゃる方が多いのですが、手すりを付けるのに認定はいりません。自費になるだけで、工事そのものはいつでもできます。
そして、早いほうがいい理由が3つあります。
- 高さをご本人に合わせられる — 手すりは、実際に握ってもらって位置を決めるのがいちばんです。歩ける方なら、その場で「もう少し手前」「もう少し低く」と決められます
- 使い慣れる時間ができる — 体が弱ってから初めて手すりを付けると、そこに手すりがあること自体を忘れます。元気なうちから使っていれば、手が勝手に伸びるようになります
- 工事のときに家を空けやすい — 浴室やトイレの工事は数日お使いいただけません。動ける時期のほうが、ご近所やご家族の家で過ごすなどの調整がしやすくなります
逆に「認定を受けてから、20万円の枠を使ってまとめてやろう」と待つ方もいらっしゃいます。それも一つの考え方ですが、待っているあいだに転ぶ可能性は毎日あるということだけは、頭の隅に置いておいてください。
手すりは「付ける」より「どこに、どの高さで」
手すりは、バリアフリー工事のなかで最も安く、最も効く工事です。ただし付ける場所と高さを間違えると、ほとんど意味がありません。
横に持つか、縦に持つか
手すりには役割が2つあります。体を横へ移動させるための「横手すり」と、立つ・座る・またぐときに体を引き上げる「縦手すり」です。
- 廊下・階段 — 横手すり。歩く動きを支えます
- 玄関の上がり框、トイレ、浴槽の横 — 縦手すり。体を持ち上げる動きを支えます
- 玄関ドアの内側 — 縦横のL字。靴を脱ぎ履きするときは、両方の動きが出ます
高さの目安は、横手すりで床から75〜80cm前後です。ただしこれはあくまで目安で、背の高さと腕の長さで変わります。当社では必ず、その場でご本人に握っていただいてから位置を決めます。
階段の手すりは「下りるときの利き手側」に
階段に1本だけ付けるなら、下りるときに利き手が来る側にしてください。事故が起きるのは下りです。それと、階段は途中で手すりが途切れると、そこで持ち替えが必要になって危険が増えます。いちばん上から、いちばん下まで通すのが原則です。
壁の中に下地がないと、抜けます
これがいちばん大事な話です。日本の家の壁は、多くが石膏ボードでできています。石膏ボードだけに留めたビスは、体重がかかった瞬間に抜けます。
転びかけた方が手すりを掴み、その手すりごと倒れる。これがいちばん怖い事故です。壁の中の柱の位置に合わせて留めるか、合わない場所には下地の補強板を入れてから取り付けます。ホームセンターの手すりをご自身で付ける前に、一度だけ下地を確認させてください。確認だけのご依頼でもお伺いします。
段差は、なくすより「小さくする・見えるようにする」
「段差をゼロにしてほしい」というご要望をよくいただきますが、家の構造上、全部をなくすのは現実的でないことが多いです。そして段差はゼロにするより、安全なかたちに変えるほうが効くこともあります。
2〜3cmの敷居がいちばん引っかかる
不思議に思われるかもしれませんが、大きな段差より、低い段差のほうがつまずきます。20cmの段差は誰でも「段差だ」と認識して足を上げますが、2cmの敷居は認識しないまま歩くからです。敷居を削って傾斜をつける、すりつけ板を渡す、といった工事は1か所あたり半日で終わります。
玄関の上がり框は、1段を2段に
上がり框の20cmを一気に上がるのがつらくなってきたら、式台(しきだい)や踏み台を入れて、1段を2段に割る方法があります。段差そのものは残りますが、一度に上げる高さが半分になります。ここに縦手すりを1本足せば、かなり違います。
段差が見えるようにする
工事をしなくてもできることもあります。段差の縁に色の違うテープを貼る、階段の手前に足元灯を付ける、といった対策です。年齢とともに、暗いところでの見え方と、色の濃淡の見分けが落ちます。床と同じ色の段鼻は、本人には見えていません。
ただし、床のかさ上げには注意
段差をなくすために床を上げると、今度はドアが開かなくなる、天井が低くなる、別の場所に新しい段差ができるということが起きます。「ここの段差だけ」と部分的に直した結果、家全体では危険が増えていた、という現場を見たことがあります。段差の工事は、家全体の動線を見てから決めてください。
浴室と脱衣所は、転倒と寒暖差の両方を見る
浴室は、家のなかでいちばん条件の悪い場所です。床が濡れている、石けんで滑る、裸なので怪我をしやすい、そして浴槽をまたぐという動作がある。ここだけは、転倒だけでなく「寒さ」の対策も同時に考えてください。
浴槽のまたぎ高さ
古い在来工法の浴室では、浴槽の縁が床から50cm以上あることが珍しくありません。またぐ高さは、目安として40cm以下だと、ぐっと楽になります。浴槽を入れ替えるほか、浴室内の床をかさ上げする、洗い場側にすのこを入れる、という方法もあります。
縦手すりと、腰かけ
浴槽の横に縦手すりを1本。それと、浴槽に腰かけてから足を入れる(浴槽の縁に一度座る)やり方に変えると、片足立ちの時間がなくなるので安全です。この動きをするための台や、幅の広い浴槽の縁があると理想的です。
ヒートショック(寒暖差)は冬の話ではなく、家の性能の話です
暖かい部屋から寒い脱衣所へ移動し、服を脱ぎ、熱い湯につかる。この間に血圧が大きく上下します。脱衣所に暖房を1台置くだけでも違いますが、根本的には浴室そのものの断熱です。
在来工法の浴室(タイル貼りで、壁がコンクリートや土壁のもの)は、外気の影響をまともに受けます。ユニットバスに入れ替えると、断熱材の入った壁と天井、断熱浴槽になるので、湯が冷めにくく、脱衣所との温度差も縮まります。「滑らないように」だけでなく「寒くないように」を同時に解決できるのが、浴室工事の値打ちです。
なお、屋根や天井からの熱の出入りも部屋の寒暖差に効きます。この考え方は「2階の暑さは屋根が原因かもしれません」でも書いていますので、あわせてご覧ください。
見落とされるのが屋外まわりです
バリアフリーというと家の中の話になりがちですが、私たちが外まわりの工事をしている会社だからこそ、強く申し上げたいことがあります。
濡れた玄関アプローチのタイルは、家の中のどこよりも滑ります
玄関前のタイルや土間コンクリートは、雨の日、そして冬の朝に非常に滑ります。とくにつるつるした磨きタイルは危険です。滑りにくい仕上げに変える、ノンスリップ材を塗る、部分的に貼り替える、といった対応ができます。
門から玄関までに段が2〜3段あるお宅
ここに手すりがないお宅がとても多いです。屋外用の手すり(アルミやステンレス)を1本立てるだけで、雨の日の出入りがまったく変わります。屋外の手すりは、地面に基礎から立てる必要があります。ブロック塀にビス留めしただけのものは、寄りかかった拍子に倒れます。
足元が見えるだけで、転ばなくなります
玄関ポーチ、駐車場から玄関までの通路、勝手口。この3か所に人感センサー付きの照明を足すのは、費用のわりに効果が大きい工事です。夜、荷物を持って帰ってきたときの一段が、いちばん危ないからです。
雨樋があふれると、通路が濡れ続けます
これは私たちの本業に近い話です。雨樋が詰まっていると、雨のたびに玄関前や通路に水が落ち、いつも濡れた状態になります。濡れた場所には苔が生え、苔が生えた土間は氷のように滑ります。「玄関前がいつも滑る」というお宅は、まず頭上の雨樋を見てください。詳しくは「雨樋のつまり・あふれを放置すると起きること」に書いています。
ひとつだけ、お願いです
屋根や雨樋の掃除で、ご自身が脚立に登るのだけはやめてください。足腰に不安が出てきた方の転落は、毎年必ず起きています。脚立の上での作業は、平地を歩くのとはまったく別の危険です。高いところの確認は、点検だけでもかまいませんので私たちにお声がけください。お見積り・点検は無料です。
工事の種類と費用の目安
建物の造りや現在の状態によって変わりますが、一般的な戸建てでのおおよその目安です。金額は工事だけの目安で、介護保険や自治体の助成を使う前の金額とお考えください。
| 工事内容 | 費用の目安 |
|---|---|
| 手すりの取り付け(1か所・1〜2m) | 1万円〜5万円程度 |
| 階段の手すり(上から下まで通し) | 5万円〜12万円程度 |
| 下地の補強を伴う手すり(1か所) | 3万円〜8万円程度 |
| 玄関の式台・踏み台の設置 | 3万円〜10万円程度 |
| 敷居の段差解消(1か所) | 1万円〜5万円程度 |
| 滑りにくい床材への変更(6畳程度) | 8万円〜20万円程度 |
| 開き戸から引き戸への交換(1か所) | 10万円〜25万円程度 |
| 和式から洋式便器への交換 | 15万円〜40万円程度 |
| 浴室の手すり・すのこなど部分的な対応 | 3万円〜15万円程度 |
| 在来浴室からユニットバスへの入れ替え | 80万円〜150万円程度 |
| 屋外の手すり設置(基礎から立てる) | 8万円〜20万円程度 |
| 玄関アプローチの滑り止め・段差改修 | 15万円〜40万円程度 |
| 人感センサー付き照明の増設(1か所) | 2万円〜5万円程度 |
表を見ていただくと分かるとおり、効果の大きい工事ほど安いのがバリアフリーの特徴です。手すり1本と足元灯1つで、その家の危険はかなり減ります。いきなり浴室の入れ替えから考えなくて大丈夫です。
介護保険の住宅改修費20万円の使い方
要支援・要介護の認定を受けている方が対象の制度です。制度の内容は全国共通で、次のようになっています。
- 上限は20万円(工事費のうち20万円まで)。そのうち自己負担は1〜3割です。1割負担の方なら、20万円の工事で自己負担2万円になります
- 一度に使い切らなくてかまいません。今回5万円、次に7万円というように、合計20万円に達するまで分けて使えます
- 原則ひとり1回ですが、要介護度が3段階以上重くなった場合と、引っ越した場合は、あらためて20万円まで使えます
対象になる工事は6種類だけです
- 手すりの取り付け
- 段差の解消
- 滑りの防止・移動を円滑にするための床材の変更
- 引き戸などへの扉の取り替え
- 洋式便器などへの便器の取り替え
- 上の5つに付随して必要になる工事(下地の補強、給排水工事など)
逆に言うと、浴室をまるごとユニットバスに入れ替える工事そのものは対象外です。ただしその中に含まれる手すりの設置や段差の解消の部分は対象になり得ます。この線引きは自治体の判断も入りますので、必ず事前に確認します。
いちばんの落とし穴:工事のあとでは申請できません
この制度は着工前の申請が必須です。急いで工事をしてしまってから「介護保険が使えるらしい」と気づいても、原則として支給されません。順番はいつも、①ケアマネジャーまたは地域包括支援センターに相談 → ②見積りと必要書類の準備 → ③市区町村へ申請 → ④許可が出てから着工、です。ここだけは間違えないでください。
手続きの流れ
- ケアマネジャー(担当がいなければ地域包括支援センター)に相談する — 「住宅改修が必要な理由書」を書いてもらう必要があります
- 工事業者に見積りを出してもらう — 図面や現況写真も申請書類として必要です。当社で用意します
- 市区町村へ事前申請する
- 承認が下りてから着工
- 工事完了後、領収書などを提出して支給を受ける
支払いは、いったん全額をお支払いいただき、あとから保険給付分が戻ってくる償還払いが原則です。市区町村によっては、最初から自己負担分だけを払えばよい受領委任払いが使えるところもありますので、お住まいの窓口でご確認ください。
自治体独自の助成が別にある場合もあります
介護保険とは別に、市区町村が独自に住宅改修の助成をしていることがあります。ただし制度名・金額・条件・申請期限は年度ごとに変わり、予算がなくなり次第終了するものも多いです。この記事に具体的な金額を書くと古くなってしまうので、書きません。工事を決める前にご相談いただければ、そのときに有効な制度を一緒に確認します。
なお、火災保険はバリアフリー工事には使えません。火災保険は台風や大雪などで壊れた部分を元に戻すための保険です。「保険で手すりが付けられます」という営業があれば、その場でお断りください。この手の話については「訪問営業の手口と断り方」も参考になると思います。
どこから手を付けるか
ご予算に限りがあるのが普通です。当社が現地でご提案するときの優先順位は、次の考え方で決めています。
- 夜中に寝室からトイレへ行く道 — 頻度が高く、暗く、寝起きでふらつく。ここが最優先です。足元灯と、廊下の手すり
- 玄関の上がり框 — 毎日必ず通り、片足立ちになります。縦手すり1本から
- 階段 — 転んだときの被害がいちばん大きい場所です。通しの手すりを1本
- 浴室 — 縦手すりとすのこで先に手当てし、浴槽の入れ替えは予算と時期を見て
- 屋外 — 玄関アプローチの滑り止めと、門から玄関までの手すり
並べる基準は「毎日通るか」「暗いか」「片手がふさがるか」の3つです。この3つが重なる場所から順に潰していけば、少ない費用で危険を大きく減らせます。
工事の前に、必ず決めておいていただきたいこと
- 実際に使うご本人に、現場で立ち会っていただく — ご家族だけで決めた手すりは、高さが合わないことがよくあります
- いま困っていることを、具体的に教えていただく — 「風呂が不安」ではなく「浴槽をまたぐとき」「立ち上がるとき」まで聞かせてください。付ける物が変わります
- この先5年、10年のことも一度考える — いま必要なくても、下地だけ入れておけば、あとで手すりを足すのが安く済みます
最後の「下地だけ先に入れておく」は、他の工事のついでにやると特に安く上がります。内装や水まわりを触るときに、壁の中へ補強板を入れておくだけです。そのときは数千円の材料代でも、あとから壁を開けるとなると数万円かかります。
よくある質問
介護保険の認定を受けていませんが、バリアフリー工事はできますか?
できます。介護保険の住宅改修費は要支援・要介護の認定を受けた方が対象ですが、認定がなければ工事ができないわけではありません。全額自費になるかわりに、内容も時期もご自身で自由に決められます。むしろご本人が自分の足で歩けるうちのほうが、手すりの高さや位置を実際に握って決められるので、体に合ったものになります。
手すりは自分で取り付けてもいいですか?
市販の手すりを壁に留めること自体はできますが、壁の中に柱や補強板といった下地がない場所に石膏ボードだけで留めると、体重をかけた瞬間に抜けます。転びかけた方が手すりごと倒れるのが、いちばん危険なパターンです。下地の位置は外から見ても分かりませんので、取り付ける前に一度確認させてください。確認だけでもお伺いします。
工事は何日くらいかかりますか。その間、家で暮らせますか?
手すりの取り付けや敷居の段差解消なら半日から1日で終わり、暮らしたままで工事できます。トイレの便器交換は1〜2日、在来浴室をユニットバスに入れ替える場合は解体を含めて4〜7日ほどかかり、その間はお風呂が使えません。通院やデイサービスのご予定に合わせて日程を組みますので、先にお聞かせください。
バリアフリー工事に火災保険は使えますか?
使えません。火災保険は台風や大雪などで壊れた部分を元に戻すための保険で、老朽化や暮らしやすさのための改修は対象外です。「保険で手すりが付けられます」と言う業者があれば、その話はお断りください。使える可能性があるのは介護保険の住宅改修費と、お住まいの自治体の助成制度のほうです。
手すり1本のご相談でも、点検だけのご依頼でもかまいません。キヨスホームは現地調査・お見積り無料、大阪府内・関西圏へお伺いします。工事が不要だと判断すれば、そうお伝えします。壁の下地の確認だけでも、お気軽にお声がけください。
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